規制の分厚い壁、ならば新しい文化をつくる

2015年10月23日
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 私は、馬英華、ま えいかといいます。日本で働く中国人の経営者です。中国で日本語を学んだあと早稲田大学へ留学し、法律を学びました。中国で弁護士の資格を取ったのち、日本でエレベーター保守や改修を手掛ける会社を始め、すでに20年近くたちます。中国でビジネスをしたい日本企業へ、商法に精通する弁護士としてアドバイスする仕事もしています。日本の方には「ま、ええか」と覚えてもらっています。けっこうインパクトがありますよね?
 
 日本は2020年、東京オリンピック開催を迎えます。それに照準を合わせ、さまざまな施設がリニューアルされるでしょう。また、東京だけでなく、1980年代に急増したビルは日本全国にあります。築30年ほどたち、建て替え時期にきています。複数階を持つ建物のあるところにはほぼ必ずエレベーターがあります。低コスト運用で安全を求められるこのエレベーター業界は、さらに成長する可能性があるといえます。
 

■エレベーター契約、一生続く?

 
 私のお客さんはオフィスやマンションの所有者です。建築基準法に基づき、ビル所有者はエレベーターの保守管理を義務付けられています。こうした顧客と私の会社は契約し、改修や保守点検をするのです。
 
 ところが、ほとんどの所有者は、そのエレベーターをつくったメーカー系列の保守管理会社と契約するものだと思っているようです。一生、そのメーカー系列の会社と契約をし続けないといけないとすら思っているように私には見えます。
 
 私の会社は「独立系」と呼ばれ、特定のメーカー子会社ではありません。あらゆるメーカーの部品をそろえ、どのビルがどのメーカー製エレベーターを設置していても故障や保守に対応できるのです。しかも価格はメーカー系列会社に比べて安くできる。営業に出かけて、見込み客にそう説明をしても、「そんなことできないでしょ」と言われる。故障したときに部品などを持ち込んで修理するには、そのメーカー系列であれば部品調達が迅速にできると強く信じている人は非常に多いのです。
 

■「部品は売らない」

 
 私が起業したのは1997年。それ以前に規制緩和があり、どの会社でも参入して保守サービスを提供できるようになっていますが、多くの人はそのことを知りません。エレベーターメーカーの系列会社による部品供給と修理の抱き合わせ販売や、独立系保守など競合会社への不当な取引妨害は、独禁法に触れる恐れがあります。それでもメーカー系列会社が強い状況はなかなか変わりませんでした。
 
 今も忘れられないことがあります。私の会社が保守契約を交わした、あるビル所有者から電話がありました。前日契約したばかりの彼はなんと、すぐ解約したいと訴えたのです。彼はマンションとオフィスビルを合わせて10棟所有していました。それまで、あるメーカー系列の保守会社と契約していたところ、私の会社が提示した価格が安かったために、この保守会社を解約して当社と新規契約をしてくれたのです。
 
 説明を聞くと、契約解除を申し渡したその会社から、担当者を含め8人が乗り込んできて、契約更改するよう強烈な説得にあったというのです。「東京エレベーターと契約したら部品を売ることはできない」「エレベーターが故障してもすぐに部品が手に入らなくなる。あなたは大変なリスクを負う」。故障してもすぐ修理できないと思ったこの所有者は――本当はそんなことはないのですが――結果的に当社との契約をやめてしまいました。
 
 ああ、自分はなんて大変なところにいるんだろう。緩和されているとはいえ、分厚い規制の残る業界に飛び込んで、壁にぶち当たってしまった。そう思いました。
 
 今も部品を売り渋るメーカー担当者はいます。数年前にも、顧客のエレベーター故障で、あるメーカーに部品調達を依頼したところ「すぐの納入は難しい。90日間はかかる」と言われました。「あなたの会社の製品ですよ。もしあなたが保守を担当していて、お客さんが困っていても3カ月、修理しないのですか」と返しても、文書が整わないなどというのです。結局「この事実を公表しますよ」と伝えたら翌日、納品されました。
 

■日本は競争できるはず

 
 「部品を売ってもらえない」状況は、起業する前に数年身をおいていた、別の独立系エレベーター会社にいたときからあることです。競争の原理は日本にあるはずじゃないのか。なぜ、この業界にはその原理が働かないのか。社会主義の中国から来て、日本の法律を勉強し、弁護士の資格を取った私が抱えていた、大きな違和感でした。
 
 競争できるビジネス、人々に選ぶ権利のある環境。こうしたことの実現が難しい規制の厚さが日本の文化ならば、自分が新しい文化をつくる。そう決意して今に至ります。私は目標を設定し、それに近づき、越えたときの達成感がたまらなく好きです。新しい文化をつくる、それは固定概念を破ることにほかなりません。そのためにたくさんの工夫と努力をしてきました。このブログで折に触れご紹介していきたいと思います。
読者からのコメント
小谷さん、30歳代男性
規制の分厚い壁の他にも、大手と独立系の壁、日本人と外国人の壁、男性経営者と女性経営者の壁など目に見えない壁はたくさんあったかと思います。それらを乗り越えるのは大変な苦労だったと思います。これからもブログを楽しみにしています。
 
不動産屋さん、50歳代男性
17年前に脱サラして不動産業界に入り、メーカー系のエレベータ保守会社がいかに暴利を貪っているか、すぐに痛感しました。顧客の無知につけ込み、フルメンテナンス契約を締結し、本来なら月額1万円でも利益の出るところ、7万円で契約している例を見て愕然としました。 その時、よほど私もこの業界に参入しようかと思いました。価格競争では絶対に負けないからです。でも、そもそも機械に無知だし、不動産の仕事はまあうまくいっているし、参入には踏み切れませんでした。馬さんを見て、臍をかんでいます。頑張ってください
 
Q太郎さん、60歳代男性
マンション管理士としてNPO法人を起ち上げている私は、閉塞されたマンション管理業界の目に見えない壁に日々戦っています。エレベーターにはメーカー系、独立系があり、タワーマンション等を除いてリニューアルも保守も施工できる技術力は双方にあります。同じように保守契約にはFM(フルメンテナンス)契約とPOG(パーツ・オイル・グリース)があることさえ、管理組合は知らされていません。このようなコラムが設けられた事で力づけられました。
 
やってみなはれさん、60歳代男性
郷に入らば郷に従えという格言はときに長いものには巻かれろの言と混同される。日本では部品一つに完成品並みの価格設定が横行し、修理より買い換えが得になる仕組が存在する。そんな時海外等から安い部品が入ってきて完成品メーカーは牙城を崩され、衰退する。国内(郷)にだけ通用する仕組で不当な利益を稼いできた企業はTPPなどによる規制改革の波に押されて消え行く運命にあるのかもしれない。単に身構え反発するのではなく、甘えの構造を洗い出し自ら改革するときがきていると認識すべきだ。
 
60歳代男性
新規参入し、業界を変えるのは本当に苦労が多かったに違いない。ましてや外国人としてなら尚更だ。我が国には、既得権益や顧客の利益につながらないビジネスは数えきれないほどあるだろう。 だからこそ、海外からの刺激、女性の感性、既得権益と闘う新参者を応援したい。今後のブログも楽しみだ。
 
ひの正平さん、60歳代男性
まーええか社長、期待しています。以前、半年上海で、仕事していました。中国の女性のバイタりティーには、目を見張るものがあります。馬さんのブログが、日中の懸け橋になると、おもいます。
 
泉野普久さん、60歳代男性
規制のなかでぬくぬくと競争を避けて、税による補てんを受けて生きて、それを得票に結びつける選挙とその群像。これら特有の閉鎖的な文化または風土との戦い。法律は守ってくれるのですね。法の理念に消費者の利益と公正な競争があるけど大変ですね。メーカーはサービスまでは勿論、サービスからリピートまで囲い込むことを進めている。熾烈な競争が異次元の局面で牙をむきあっている。海外から来て、よくここまでたどり着きましたね。ガラパゴスの胡散臭い我が国を法と市場原理を盾に勝ち抜き、インターナショナルに導いてほしいです。そんな日が来る予感がした。
 
20歳代女性
日本は世界の中でもとりわけ特殊な文化を持った国だと思います。人口減少問題の対策を差し迫られる今でも移民に対する不信感が拭えないなど、ある意味内向きで閉ざされた文化が根付いているのかもしれません。その中で外国人として起業し、活躍する馬さんの経験や考えはとても興味深いです。 最近はテレビなどで「外国人が賞賛する日本文化」といった日本人の自尊心を満たすような内容がよく取り上げられますが、あえて「外から見ると日本のここが変」という純粋な意見や経験談を伝えることも貴重だと思います。日本が世界でビジネスを行う上で、そういった意見も有益になるのではないでしょうか。 起業をするにあたってなぜ日本を選んだのか、日中間のビジネスや価値観の違いについても、これからブログで触れていただきたいです。 壁を打ち破ることを喜びとし挑戦しつづける馬さんが、日本のビジネスを盛り上げてくれることを期待します。
小倉摯門さん、60歳代男性
異色の経歴を持ち男臭い事業領域で活躍中の女性経営者のご登場を大歓迎します。日経編集子の人選はお洒落です。「ま、ええか」は仄かに大阪弁の香りと愛敬があり覚え易い(笑)。日本では経営者でさえ狭い井の中で群れをなし横に並ぶのが好きな人が多いのです。彼らは合理的な変革進化を厭い井の中だけに通用する旧い慣習を守っているのです。然し、少数派ですが、そんな思考停止の群れを外れて自立と自律を志す人達が「大変なところにいるんだ!」と慨嘆し日々格闘する日本人がいることはご承知戴きたいですね。その観点で、馬さんには目標を越えることの達成感や新しいビジネス文化の素晴らしさに焦点を置いたブログを期待します。然すれば、その道筋では自ずから「新しい文化vs古く慣習」の対比や、日本社会の罔さや殆うさにも触れることになる。馬さんの斬新な眼で描かれるブログが、多くの日本人が挑戦し奮起する勇気と活力を与えるものになれば好い。
 
40歳代男性
ビルオーナーも含めて、エレベーターの保守費用に頭を悩ませている人は多いと思います。私も当然、メーカーが保守するものだと思っていました。安く、親身になって保守してくれる専門会社があるのなら、そこに任せたいという需要は多いでしょうね。規制改革、規制改革といいながら、日本はまだ開かれていない分野がたくさんあるのですね。馬さんのブログ楽しみにしております。
 
30歳代女性
エレベーターは、それを作ったメーカー系列の保守管理会社と一生契約するものだと思っていた1人として、目から鱗の記事でした。 長期間部品調達ができないと嫌がらせをしておいて、「この事実を公表します」と言われた翌日に納品するようなセコイ会社はいまだに多くありそうですね。 新しい文化を作るために、様々なことに挑戦し戦って来られた馬さんの今後のブログも楽しみにしています。
 
嘆きの60歳さん、60歳代男性
同じ日本人でも新規参入には困難が伴う。周りから好奇の眼で見られる。まして海外からの参入となると、尚更のことであろう。皆、鵜の目鷹の目で見ている。これらは何処の国でも状況は同じであろう。程度の差はあるが、その社会がOpenな社会か、Closedな社会かにより変化が見られる。今までの経験から言えることは、欧米は比較的Openであるが、日本を含む東南アジアの国は、Closedな社会と感じる。文化を作っている民族、言語、宗教が大きくからんでくるのでは。その上その国の歴史がそれぞれ異なるので、その国の人間の思考方法、考え方は異なる。その国で生き延び、発展を目指そうとするのであれば、「郷に入っては、郷に従う」が基本であるが、其処に如何に風穴を開けるか。努力と工夫の連続であろう。その努力の量の大きさは、並大抵のものではない。これからのブログ、楽しいものを期待します。謝謝。
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